アニメ「シュタインズ・ゲート」感想

2017年8月某日に書いたものである。

観るきっかけ

アニメ「シュタインズ・ゲート」を観た。

最初にこの作品の名前を聞いたのは、とあるニコ生主によるダークソウル3実況プレイ中の雑談でだ。その人が、おもしろいと言っていたので、気にはなっていた。次に聞いたのは、数か月後、漫画家の大井昌和さんのコミックガタリーという放送で、漫画を描いている間、エンドレスリピートで観ていると言っていて、より気になり始めた。

さらに数か月後、ある日、アマゾンプライムの動画一覧に、存在しているのを見つけた。しかし、この時点では、そもそもアニメを観たい気分にはなかった。しかしながら、時間はあったので、観てみることにした。

前半

この作品は、大きく分けて、前半と後半に分かれる。前半はつまらない。たとえば、SHIROBAKO という作品は、冒頭の10分くらい、女の子たちが集まってワイワイやっていて、「これを観ても自分は何も得ることはないだろう」としか思えない。ただし、それは冒頭の10分くらいに限られていて、それを除けば、ひたすらにおもしろい。

シュタインズ・ゲートもこの手の構成で、しかし、つまらないのは冒頭10分などという短い間に限ることはなく、前半の 1話~12話 くらいまでは 8 割方きつい。まず、主人公が自らを中二病と言っていて、架空の通話相手と通話をよくする。仰々しい物言いや、終始演技のように振る舞っていて、本質から逃げつづけているかのようだ。そもそも中二病というネットスラングだったり、その他、2ちゃんねる的な掲示板が出てきたり して、作品内がネット臭く、この時点で、もう嫌な感じだ。

突然、大きな音がして、人が血を流して倒れている。主人公は、建物から出る。眩暈のような演出が入る。何かおもしろいものが始まるかと思いきや、何事もなかったかのように、日常に戻る。主人公の人格には難があるが、性根は非常に良い人で、人間関係には恵まれている。女A, 女B, 女C, 女D と、何人かの女と仲良くしているシーンが次々に流れる。こういうのをギャルゲー的とかハーレムとか言うのだろう。

ここまで観て、これおもしろいか? これからおもしろくなるのか? 自分には合わないんじゃないだろうかと不安でしかなくなるのだが、実は、この設定こそが、重大な伏線である。この嫌になるほど平和でつまらない世界を、後半を楽しむためには必ず知っておかなくてはならない。現実では誰も体験したことのない、しかし、条件が揃えば起こりうる現実的な恐怖を味わうために。

主人公は研究をしていて、偶然にも、時空を操作できる電子レンジを発明してしまう。この辺りで、ようやくおもしろくなってくるかと思いきや、これもまだ序の口であり、話の主要な部分がなかなか進まない。電子レンジを応用して、過去にメールを送ることに成功する。これによって、宝くじを云々したり、男だったキャラを女に改変したりする。ここまでは普通の過去改変で、特におもしろいところはない。過去を改変したことはいいが、改変したという記憶を主人公以外が保持していないのが恐ろしいところだ。かつて男だった女キャラに対して、主人公は「お前は男だった」と告げるが、当人を含め周囲の人間の誰もが、「いくら冗談でもそこまでひどいことを言うもんじゃあない」という反応しかしない。過去改変後の現在において、そのキャラは最初から女だということになっており、かつて男だったと知っているのは主人公だけなのだ。

主人公の中では、相手とのふれあいが、本物の記憶として残っているのに、相手は覚えていないし、地球上・宇宙上で誰一人として知っている者はいない。これほどの孤独・恐怖があるだろうか。

かつて男だった女キャラは、最初から、男の娘として描かれており、いわゆる萌えキャラという位置付けで、そういう、下心のみによって生成されたキャラが嫌いだから、登場時点で、こんなキャラ不要だろ、どういう意味もねえんだろどうせ、としか思わず観ていたが、こうなってくると、味わいが出てくる。

後半

前半の重要部分はそれくらいで、あとは、オタクの街・秋葉原が、そうでない街になるような過去改変が行われ、それを知っているのは主人公のみ、といった、同じ種類の恐怖が繰り返される。それ以外は、おおよそ平和な日常ではあるので、前半はわりと退屈だった。

後半と呼ぶべき展開は、話数的にも約半分の時点で始まる。過去にメールを送るだけではなく、人間が過去に行けるようなマシンが出来上がりそうな段階で、主人公の幼馴染である弱弱しいキャラが、銃殺されてしまう。この時まで、作中で暴力的なシーンが全くといっていいほど無かった中、主人公の目の前で、この唐突で衝撃度最大の事件が起こる。半ば眠くてだるくなるくらいの前半は前振りであって、ここからシュタインズ・ゲートの真髄が幕を開ける。なぜ、殺されてしまったのか。なぜ、あの人物が発砲したのか。説明はなく、推測の困難な突拍子もない展開だ。

ここから、主人公は、タイムリープを使って、幼馴染が殺されないような過去改変を幾度となく繰り返すことになる。何度やっても、どう改変しても、殺されてしまう。この辺りで、幼馴染がどういう人物だったかが説明される。幼い頃に両親を失ったというような過去を持っていて、そのせいで、時折どこか遠くへ消えてしまいそうだったという主人公の回想が入る。唯一、幼馴染の精神を主人公だけが守りつづけてきたのだ。そんな主人公自身も、似たような過去を持っていて、深い悲しみをかばうような意味で中二病的な、全てを茶化したような振る舞いをやめられないのだ。こうなってくると、あのウザかった人格に憐れみを持たざるを得ない。そして、幼馴染を救うために何度も諦めず継続してトライする姿がとてもかっこいいのだ。

おまけ

ここからは、約一年後、2018年4月某日に書いたものである。

この作品は、一言で言ってしまえば、前半はつまらないがしかし重要で、後半はおもしろい。時間を行き来する SF 的な興奮、大切な人を失わないために孤独に戦い続ける主人公、終わらない過酷な日々が続くからこそ、うざかったキャラも平和で退屈だった日々も愛おしく思えてくる。

途中、未来からやって来た人物が、タイムマシンで別の時代へと移動することになる。ここで事故が発生するのだが、広瀬正の小説「マイナス・ゼロ」に出てくる事故と同様のものである。きっと元ネタなのだろう。

続編

最近、この作品のほぼ続編と言っていい設定の新しいアニメ「シュタインズ・ゲート ゼロ」が放送開始された。1話を観たが、不穏なものだ。主人公に平和はない。前作で大切な人の死を何度も経験し、精神を患っている。前作の構成は、前半に視聴を中断したくなるようなものだったが、今作は始めから緊張感が高く、楽しく観られた。